「企業がサテライトオフィスをもつメリットはなんだろうか。」そんな疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、地方自治体にサテライトオフィスを開設した企業の事例を紐解きながら、地方ビジネスの可能性や、都会と田舎の2つの場所で働く魅力を探っていきます。
初回の今回は、ネットワーク技術を中心としたハード・ソフトウェアの開発などを手掛ける株式会社イーツリーズ・ジャパンの船田社長にお話を聞きいていきます。
【美波町のサテライトオフィス誘致】 働き方の多様性が急速に進むなか、今まで以上に「地方で働くこと」に注目が高まっていますが、今から8年前、まだ「地方創生」という言葉もなかった時代から、サテライトオフィス誘致に軸足をおいた関係人口創出策を進めてきた徳島県美波町。2020年現在、全国1位タイとなる20社がサテライトオフィスを開設しています。
サテライトオフィス企業 事例 file.1
■企業名:株式会社イーツリーズ ・ジャパン
■代表取締役 船田 悟史
■本社:東京都八王子
■事業内容:ハードウェアとソフトウェア製品の設計・開発
■SO開設:2016年
■美波町での活動内容:
– 大規模スポーツイベントの省力化サービス(みなみえる)等、地域課題解決型サービスの開発
– 地域教育機関との連携業務(インターン受け入れ等)
– 地域SO連携勉強会「みなみテック」主宰 等
企業が、地方のサテライトオフィスで行っていること
− 美波町のサテライトオフィス ではどんな業務を行っているのか教えてください。
弊社は、本社が東京都八王子にあり、ハードウェアとソフトウェア製品の設計・開発を行っています。美波町ではその業務の一部を行うとともに、徳島県南部の地域課題を解決するためのサービス・システムの開発や実証実験などを行う拠点として活用しています。
具体的には、大規模スポーツイベントの省力化サービスの開発を進めています。毎年美波町で行われるトレイルランニングの大会などで、選手の位置情報を共有する「みなみえる」というシステムを開発。地元の阿南高専の学生さんの手伝いも受けながら、選手が安全に競技を行える環境を整えました。
今は県内の別のスポーツイベントで導入が進んだり、他県での展開も実現したりと、徐々にですが広がりを見せています。
過疎地にサテライトオフィス を開設した経緯
− 美波町にサテライトオフィス を開設した経緯についてお話いただけますか?
最初に美波町に縁ができたのは、元々知り合いだった企業(サイファー・テック)の社長が美波町にサテライトオフィスを開設したのがきっかけです。ただはじめて美波町を訪れた時はそれほどサテライトオフィスに興味がわかなったのが本音でして(笑)
東京の八王子に本社があるので、近くに自然はたくさんあるし、わざわざ四国まで行かなくても、やろうと思えば趣味のアウトドアと仕事を両立させる働き方は実現可能でした。なので、ワークライフバランスを充実させるためだけのサテライトオフィス開設になかなかメリットを感じなかったんですね。
− 気持ちが変化したきっかけとは?
2015年に、先にサテライトオフィスを開設していたサイファー・テックさんが美波町で大学生の短期インターンを受け入れることになり、そのお手伝いに入ったんです。「IoTで地域課題を解決しよう!」をテーマに、1週間、学生らと地域課題とその解決策について向き合いました。
その中で、自分が思っていた以上に地域には課題がたくさんあることや、わたしたちのような小さい会社が地域課題に取り組むことの意義を知ることができたんですね。
「地域課題」と一言で行っても、本当に多種多様で、一つひとつがそんなに大きいわけじゃない。だから大企業は取り組みにくい。地域課題に向き合うには小回りが聞く小さい会社の方があっているなと思ったんです。
小さい会社だからこそできることがある。わたしたちだからこそ生み出せる製品やサービスがきっとある。つまり、わたしたちだからこそできるビジネスがある。そう思ったのが、サテライトオフィスを開設しようと思った最初の理由になりました。そこから準備を進めて2016年にサテライトオフィス開設に至りました。
進出企業からみる、サテライトオフィス のメリットとデメリット
− サテライトオフィス を開設して4年が経ちますが、地方で働くことやサテライトオフィスのメリットやデメリットについて感じていることを教えてください。
やはり、本社以外にオフィスを持つことはその分コストがかかることではあります。
ただ、東京で認知度をあげようとしたときに展示会に出典するのが常套手段ですが、数十万円のコストをかけても、1回の出展で見込める効果は大きくはないですよね。
その分のコストでサテライトオフィスを開設することもできるし、進出先(美波町)での活動は特に何もしなくても勝手にメディアが取り上げてくれるので、広告効果は大きいなと思います。美波町はあわえさんがいて現地のPRや地域住民への広報をサポートしてくれたので、その点でもメリットは大きかったかなと思います。
メディアで取材されたことは東京の銀行や取引先なども見てくれているので、会社としての信用も上がっているかなと感じます。
− 今の時代、「地方で働く」「拠点をつくる」うえで、様々なやり方があると思います。出張などではなくサテライトオフィスを開設する方が良いと感じた理由は?
そのほうがわかりやすいかなって思ったからですね。(笑)
地方に実際入ってみるとわかると思うんですが、地域課題って明確にこれだ!って、そこにあるものじゃないんです。既に地域課題が明確なのであれば、あとはお金の問題でやるかやらないかだけじゃないですか。でも、困ってるは困ってるんだけど、結局何が問題なのかわからなかったり、根本的な課題が別のところに埋まっていたりする場合がたくさんある。そういったところは地域に入り込んでみないと掘り出せないんです。
東京からフラッと来た人に、「これに困っていてさ・・・」なんですぐに打ち明けてくれる住民の人なんてそういない。町が把握できる課題もどちらかというと大きいものに限られる。「実はこんなことに困っててさ」とぼそっと言ってくれる関係にならないといけないし、そこにビジネスの種というか、新しいサービスのヒントが隠れている場合が多い。
地域に入り込むことで、課題を掘り出してその課題にしっかり向き合うことができるし、それでこそ、わたしたちにしかできないソリューションを提供できる。
実はわたしがサテライトオフィス開設と同時に住民票を美波町に移したのも、そんな考えからなんですね。特に東京に住民票を置いておかなければいけない理由もなかったので。地域課題は小さいものから大きいものまで掘り起こせばたくさんあって、ネタとして尽きない。つまりビジネスの種が尽きない。地域に入り込むメリットはそんなところにあるかなと思います。
サテライトオフィスでこれから取り組んでいきたいこと
− 美波町でこれから取り組んでいきたいことはありますか?
地域内のサテライトオフィス ともっと連携をとって、点から面で地域課題に取り組み、新しいサービスを生み出していきたいなと思っています。
先ほど、一つひとつの地域課題が小さいからこそ、わたしたちのような小さい会社が取り組むメリットがあると言いましたが、根本的な地域課題の解決を目指した時に、やはり一社単独だと限界があるんです。
ソフトウェアが得意な企業、ハードウェアが得意な企業、アプリ開発が得意な企業、デザインが得意な企業 もしくは個人などが集まって、よりたくさんの、より深い課題に向き合っていくことが必要になってきます。
今はその最初のステップとして「みなみテック」というサテライトオフィス企業の勉強会みたいなものを美波町で主宰しています。自分たちができることを持ち寄って、何か連携できるようなとっかかりがないか、意見交換を行っています。
− 地域内のサテライトオフィス企業間の連携が大切ということですね。
そうですね。小さい会社なので、リソースは限られているし、美波町のオフィスにずっと張り付いているわけにもいかない。本当は美波町に専任で人を置いて、課題解決サービスに注力できればいいのですが、会社の規模的にそれもすぐにはかなわない。
そんな時に思うのが、地域のサテライトオフィス と連携して、人もシェアできたらいいよなと。田舎って、生業を複数持っている人がたくさんいるんです。漁師さんは釣具屋で船大工だったりするし、金物屋の店主が町の水道課の仕事を兼任していたりする。
やることはたくさんあるけれど、1つひとつはそこまで大きくないから、1つの仕事に1人を割り当てるにはリソース的に難しいし、仕事量的にもtoo much。そういうのをサテライトオフィス同士が連携することで解決して、より良いサービスの開発などにつなげていけたらなと思っています。
− サテライトオフォス間の連携強化の話がでましたが、地域の方々との連携を強化していきたいと思う部分はありますか?
そうですね。インターンの受け入れなどを通じて、阿南高専生など学生さんとのつながりもあるので、そういった方々へのアプローチは今後も積極的にやっていきたいと思っています。
やはり私は「技術」が好きで、ものづくりが好き。つくったもので何かしらの問題を解決したり、できないことをできるようにしたいという思いが根本にあるので、そうした点でも、ものをつくることで地域の課題が解決することはやっぱり嬉しい。
地域課題って突き詰めると、やはり人に関わることだと思うんです。若い人がいない、地域課題に無頓着だったり諦めている人が多かったりとか、いろいろ。根本はやっぱり人だなと思うんです。
学生さんと一緒にサービスを開発したり、働く場所や学びの場を提供したりすることによって、例えば、会社ってなんだろうとか、起業って意外と簡単なんだ!とか知ってもらえたら、もしかしたら地元出身の人が地元で起業するきっかけになるかもしれない。
もしくは、地域課題に目を向けて課題を理解するきっかけを与えられれば、もしかしたら次の世代が実際に解決に向けて動いていくことにつながるかもしれない。
そんなことも実現できたらいいなと思いますね。
編集後記
地域課題や美波町の人々に対して、常に真摯に向き合う船田社長。美波町での仕事や生活を楽しんでいるその様子から、サテライトオフィス開設後すぐに地域の人たちと打ち解けることができたようです。
船田社長が開発したスポーツイベントの省力化サービス「みなみえる」は、自身もロードバイクを趣味にすることから、「自分ごと」の範疇の中にビジネスの種となる課題を見つけ、育てていったもの。東京から来た「外の人」だからこそ気づくこともある中で、いかに地域の困りごとを自分ごととして捉えられるかが、地方でビジネスを育むためのキーポイントなのではないかと感じました。
地域に根差したよそ者であり続ける。
町民として、IT企業の社長として、東京から来たよそ者として、自分たちだからこそつくれるサービスの開発を目指して活動する船田社長と株式会社イーツリーズ・ジャパンさんの、今後の取り組みに引き続き注目です。
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