地域住民による活発なコミュニティ活動が話題の宮城県富谷市。今回は、そんな富谷市の地域活動の拠点、産業交流プラザ「TOMI+(とみぷら)」のコミュニティコンシェルジュのお二人から、コンシェルジュとしてのお仕事や、まちおこしへの想い、そして理想とする地域コミュニティのあり方についてお話しいただきます。
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「TOMI+(とみぷら)」コミュニティコンシェルジュ紹介
齋藤知幸 ) 新潟県出身 / インテリアデザイナーとして東京で働いたのち、料理の修行をするためイタリアに渡る。帰国後は新潟県の人口5,000人の村で地域おこし協力隊に従事。2018年に富谷市に移住し、あわえ所属の「TOMI+」コミュニティコンシェルジュとして富谷のまちづくりに携わる。趣味は料理研究や季節の手しごと、一児の母
木村一也 )
宮城県出身 / 障がい児を対象にしたデイサービスなどの福祉事業で起業。その後、子供向けのプログラミング教室「Qキャンプ」を立ち上げ、運営中。学校教育活動を支援しているNPO法人まなびのたねネットワークの理事として、キャリア教育事業の推進も行う。2018年よりあわえ所属の「TOMI+」コミュニティコンシェルジュとして、大人も子供も住み良いまちづくりを目指し奮闘中。趣味は、マラソン、マンガ、スイーツ大好き
「TOMI+」コミュニティコンシェルジュの仕事と役割
コミュニティコンシェルジュの仕事は大きく分けて2つ。まずはそれぞれの仕事についてお聞きしていきます。
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起業塾「富谷塾」の塾生支援
富谷市へのサテライトオフィス 誘致支援
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(1)起業塾「富谷塾」支援
齋藤)「TOMI+」コミュニティコンシェルジュの仕事の一つは、富谷塾の塾生に対する起業支援です。 富谷塾では、すぐに起業したい人だけでなく、地域のために何かしたい、コミュニティが欲しいといった方々も塾生として受け入れていて、多様な人材が集まっています。なので個々のニーズを探るためにも、塾生とのざっくばらんな話し合いをとても大切にしています。
コンセプト設計から経営方針といった事業を起こす上で必要な相談だけでなく、くだけた雰囲気の中で育まれる塾生個人の素朴な想いや感情がとても重要だと思うからです。
木村)ざっくりとですが富谷塾には、仲間を集めて自分でやりたいことを実現していく「リーダータイプ」が5%、誰かがはじめてくれたら自分ものっかれる「フォロワータイプ」が70%くらいだと言えます。 この大方をしめる「フォロワータイプ」の人たちをいかに「リーダータイプ」に導くかが、わたしたちコミュニティコンシェルジュの重要な任務。1人でも多くの塾生に「自分もできるかも」と思ってもらうことを目標にしています。
「小さなステップ」をたくさん踏むことが大切 〜 パン屋さん開業事例 〜
齋藤)そのためには小さいステップ、つまり小さな成功体験をたくさん踏むことが大切だと思っています。
例えば最近、塾生の中でパン屋の開業に向けて動き出した方がいるのですが、その方は最初、自分でお店をやろうとは全然思っていなかったんです。
まずはパンを焼いて人に食べてもらうところからスタートして、それから富谷塾生が運営するお祭り「十宮夜市」に出店したり、試食会を開くなどして、「自分のパンを他人に食べてもらう経験」「自分のパンで誰かに喜んでもらう経験」を積み上げていきました。そうした小さな成功体験を積み上げた結果、「よしお店をやってみよう!」と自らの意思で決めて、いまは店舗開設のための施工主選定を行っています。
パン屋さんの例では、最初のスタートから1年以上がたっていますが、かかった時間の長短は関係なく、自分自身でやってみよう!と思って実行できたことがとても大切だと思います。
木村)小さいステップをたくさん踏んでもらうためにはお手本が必要。まずはコンシェルジュである私たちが地域のプレイヤーとして、やってみたいことをどんどん実行する。起業というと大袈裟だけど、つまりは、自分のやりたいことをやればいいんだということを、私たちが見本となって伝え続けています。
齋藤)そうそう。リーダーとしてプレイヤーであり続けるというか、とりあえず最初に踊ってみる、みたいな感じですね。誰もいないダンスフロアで踊るのってちょっと勇気がいるけど、最初に誰かが楽しそうに踊りはじめたら、自然と人が寄ってきてみんな踊りだすでしょ。そんなイメージです。塾生の心理的ブロックを取り払ってあげることがコミュニティコンシェルジュの一番の役目だと思っています。
(2)富谷市へのサテライトオフィス 誘致支援
齋藤)「TOMI+」コミュニティコンシェルジュのもう一つの仕事が、富谷市のサテライトオフィス(SO)誘致支援です。地域で活躍できそうなSO起業の誘致や、進出したSO企業ががうまく地域内で活動できるようにサポートしています。
SO進出では地域と企業のニーズや雰囲気がうまくマッチすることが大切なので、わたしたちコンシェルジュが一種のフィルターとして機能しています。
行政の仕事はなかなか課の範疇を飛び越えづらいのが難しいところですが、私たちコンシェルジュが「つなぎ」となって、適宜適切なアシストをしています。実は市の担当者から「行政より行政らしい」と言われるほどで(笑)
行政と同じ目線で企業誘致やまちづくりを考えながら、一方で1人の市民として意見するべきことはする。外部パートナーだからこその良い距離感で連携ができていると感じます。
自覚的な職員を応援する
木村)知幸さんとはまちづくりや富谷市の未来についてよく2人で妄想しあっています(笑) こんなことあったらいいよね、できたらいいよねと、実現可能か不可能かは関係なく思いついたアイデアを市の担当者に伝えています。他自治体の事例や企業の取り組みなど、富谷のまちづくりに何かしらヒントになることも見つけたら伝えるタレコミ的なことも常にしていますね。
齋藤)富谷塾生もそうですが、市の職員さんもはじめはできないことが当たり前。よくわからないところからまずはスタートして、ステップを踏んでだんだんと事業やまちづくりに自覚的になっていく。「自分も何かできるかも」という感覚を育むサポートを自治体職員さんにも行っています。
木村)大切なのは失敗してもいいと思えること。失敗も経験。経験から学べることはたくさんあります。最悪なのは何もやらないこと。どんな些細なことでも「やってみた」という積み上げが、まちづくりにも起業にも大切だと思っています。
まちづくりに興味を持ったきっかけ
次に、そもそも「まちづくり」に興味を持った経緯についてお聞きします。お二人の「まちづくり」への情熱はどこからくるのでしょうか。
地域全体を変えないと、課題の根本的解決にはならない
木村)もともとわたしは、障がい児向けのデイケアサービスなど福祉関係の仕事をしていました。精神疾患や行動障害などは実は明確な線引きが難しくて、いわゆる「グレーな子」がたくさんいます。特別支援学級に通うほどでもないけど普通学級だと少し難しい、そんな「グレーゾーン」な子供たちって結構多いんです。そうした子供たちが生活しやすくなるためにはどうすればいいのかと考えはじめたのが、結果的にまちづくりに携わるに至った最初の思いです。
障がい者問題を解決しようと思ったら障がい自体への偏見をなくさないといけないのと同じように、地域内の顕在化した課題を解決したいと思ったら、地域全体を変えないと根本的な解決にはならない。一つの問題が解決しても結局また他の課題が出てきてしまう。
地域を良くすることで、その地域に住むみんなが生きやすくなる。そんなことを目指して、まちおこしに取り組んでいます。最近は「子供iサミット」といった子供むけの無料プログラミングイベントの開催など、教育委員会と連携した活動も行っていて、そうした点にもやりがいを感じています。
「空間づくり」から「人づくり」へ
齋藤)わたしも木村さんと同じで「そもそも論」が根底にある気がしています。
わたしは子供の頃から「普通になりなさい」と教えられていて、子供ながらに違和感を感じていました。東京に出て「個性はいいことなんだ!」と気がついてから、多様性について常に考えてきました。
もともとインテリアデザイナーとして空間づくりを生業にしていたのですが、どんなに良いコンセプトで良いデザインの空間をつくっても使う側のリテラシーが高くないとうまく使ってもらえない。そんなことから、空間づくりから人づくりへ興味がシフトしていったんです。
富谷市に来る前は人口約5,000人の自治体で地域おこし協力隊をやっていました。その地域での活動を通じて、より良い社会をつくるためには未来を担う若い世代の意識を変える必要があると感じ、子育て世代の多い富谷市でチャレンジしたいと思ったのが、「TOMI+」コミュニティコンシェルジュをはじめたきっかけです。
「人づくり」は「まちづくり」
齋藤)今の若い人はやりたいことがあってもその感覚に蓋をしてしまいがち。自分で自分の人生をハンドリングする人を増やしていきたいというのがわたしの根本的な想いですね。一人ひとりが自分の感覚に自覚的になって、自分の理想をしっかり実現するよう動いていったら、結果的に良いまちづくりにつながっていくと考えています。
例えば、オーガニック食材のお店が欲しいと思っても町にはない。ないなら自分でやるしかない。そうやってお店をつくると「私も欲しいと思ってた!」といって応援したりお客さんになってくれたりする人が必ずいる。自分が欲しいサービスをつくることが、誰かのためになり、それが地域のためになる。
自分が「こんな町にしたい」「こんなことをやりたい」と思って行動することが、結果的にまちづくりにつながっているんです。自分で住みたい町をつくっていかないと、誰かに勝手につくられた町に適応するしかなくなってしまう。そんなのいやじゃないですか。
人づくりはまちづくり。これからもやりたいことをやって好きに生きる人を地域に増やしていきたいと思っています。
サポーターとして大切にしていること
地域住民のやる気を育む「TOMI+」コミュニティコンシェルジュ。地域コミュニティを支えるお二人に、普段気をつけていることを聞きました。
大切なのは「人との距離感」と「適度に手放す」
木村)地域性なども関係するとは思いますが、人との距離感はとても重要だなと思います。他人に批判的な人も中にはいるから、そういった人たちも含めてどう付き合っていくかが大切。先ほどの話でも出ましたが、その点でも小さなステップの積み上げが重要かなと感じます。失敗しても全然良いですしね。経験をためて、いつか良い方にはじけるのを待つ、そんな感じですかね。
齋藤)わたしは塾生の結果にはあまりコミットしないように心がけています。コンシェルジュとして応援者・伴奏者ではありますが、1人のプレイヤーとして塾生の先陣切って踊る人にもならないといけない。みんなの「やればできる」の見本として、自分自身のやりたいことを実行していく必要があるから、自分ごとだけでもとっても忙しいんですよね(笑)
塾生と信頼関係を築くことはもちろん大切ですが、あまり過保護になりすぎても自立的な活動にはつながらないので、適度に手放すこと、求められたらしっかり応えることを意識しています。
「TOMI+」コミュニティコンシェルジュが目指す、地域コミュニティのあり方
最後に、お二人が考える地域のコミュニティについてお聞きします。理想とするコミュニティのあり方ってどんなものでしょうか。
「出る杭がありすぎて打てない!を目指す」
齋藤)理想のコミュニティ像とかは特に持っていないのですが、理想のコミュニティのあり方は明確に目指すものがあります。
コミュニティって副産物でしかなくて、つくろうと思ってできるものでもない。気持ちを同じにする人が集まって、地域の中にコミュニティと呼ばれるものが乱立している感じ、それらが時に混ざり合って、コミュニティ同士で人や時間やものを共有して、さらに新しい活動、次のコミュニティにつながっていく。そんなあり方が理想かなって思っています。
よく日本では「出るくいは打たれる」と言いますけど、「出てる杭がありすぎて打てない!」状態が富谷で実現したら嬉しいですね。
「自分が楽しい場をつくれば、人が自然と集まる」
木村)わたしも、自分にとって楽しいことをやり続けると自然と人が集まってきて、それがコミュニティになると思っています。「好き」を軸にしてるから続けられるし結果的にコミュニティが長続きしていく。
例えば富谷塾では「塾生1人が10の好きを育てる塾」を目指していて、「塾生500人、コミュニティ5,000個、関係人口50,000人」を目下の目標にしています。
ここでいうコミュニティとは、富谷塾で行われている「部活」のことで、塾生が好きなことを持ち寄って仲間を集めて、発起人である「部長」を中心に活動する集まりです。そこに市内外から人がさらに集まり、関係人口つまりは富谷のファンを50,000人まで育てていくことを目指しています。
「好き」「楽しい」の輪が広がり、結果的に富谷のファンがたくさん生まれていく、そんなコミュニティのあり方が理想かなって思いますね。
一緒に楽しみ、そして育む 「TOMI+」コミュニティコンシェルジュの仕事
「TOMI+」コミュニティコンシェルジュのお二人からはとにかく今の仕事をとても楽しんでいる様子がひしひしと伝わってきました。「自らが率先してやりたいことをやる」を徹底しているからこそ、発する言葉の一つひとつに説得力があり、その姿勢が多くの地域住民や役場職員のやる気を引き出している要因なのでしょう。
今回のインタビューを通じ、地域コミュニティや地域人材の育て方はもちろんのこと、人生をいかにより良く生きるか、そんな大きな課題に対する様々な示唆をもらえたような気がします。
今回お話を聞いた「TOMI+」コミュニティコンシェルジュのお二人が働く富谷市では、「おためしイノベーション富谷」と題して、富谷市に進出したSO企業や市民(富谷塾)と共に、地域課題を民間技術の活用により解決していく実証事業がスタートする予定。
富谷市の今後の活動にも注目が高まっています!
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